2018年7月5日木曜日

蝶トンボ

あなたはね

まるで蝶トンボでせう

水辺の草にとまつたまま

青い羽を見せびらかす

とても意地悪よ


捕まへやうとしたら

わたくしの手にとまつて

暫くは夢のやうに喜んだのに

あつと言ふ間にお空へ逃げたのよ


夏色の陽のなかで

全く不器用な飛び方でしたね

おほよそ

スマートな蜻蛉とは違ふのだもの


ご自慢の青い羽を

さも重さうに億劫さうに

飛んでゐるのが見えました


2018年2月18日日曜日

鬼ごっこ

こんこん小雪が舞いまする

森にも里にも舞いまする

しんしんしずかな雪の夜

だあれもいない雪の夜


いたちの子 ひとりぼっちで鬼ごっこ

ぴょんぴょんはねて鬼ごっこ

母さんも雪といっしょに降ってこい

いたちの子 ひとりぼっちで鬼ごっこ

ぴょんぴょんはねて鬼ごっこ

母さんのまぼろし追いかけ鬼ごっこ


そこに天女が舞いおりて

鬼さんこちらと呼びました

いたちの子 こわごわ追いかけて

天女はおいでおいでと逃げました

白い雪にはぽつぽつ小さな足あとばかり


いたちの子 そっと天女の手をつかまえた

母さんみたいな手のやわらかさ

天女はいたちの子を抱っこして

母さんみたいな乳房のあたたかさ


しんしんしずかな雪の夜

だあれもいない雪の夜


いたちの子 あそびつかれて雪のとこ

母さんの夢といっしょに雪のとこ

ひとりぼっちじゃないんだよ

もう泣かないよ もう泣かないよ

母さんと鬼ごっこ 母さんと鬼ごっこ


2017年6月20日火曜日

くちなし

くちなしの道で貴女に逢ったとき

恋人を選ぶようにきらきらした眼差しで

咲きかける花を盗んでいたのです

甘い香りに濡れた指に白いくちなしが

恥じらうように身をまかせていました

足音に気づいた貴女は

ルノアールの少女にように

その花を乳房にあてがい

月のひかりのように見つめたのです

なんとも愛らしい姿のひとつの罪よ

ふふと笑うとふふと微笑んで

梅雨の夜の風が吹いて

いっそう甘く香るくちなしの道を

花の盗人は細い足で逃げて行ったのです

2017年6月11日日曜日

沙羅

うすぎぬの沙羅のはなさくゆふぐれに

こひびとの影はみづのやうにあやうゐ

好きになる心はとても苦痛なのですよ

あなたに逢へば散つてしまふ命でせう

きんじられた人の愛しさその恋しさは

水辺におちる蛍の妖しい炎のやうです

かなしい微笑みは夕闇に消へてしまふ

はらはらはらはらと舞ひ落ちてしまふ