冬のゆうぐれ色ガラス
モンマルトルの裏通り
黄色い灯が照らす石畳
細い影が並んで歩いた
シャンソン酒場の重い扉を開くと
馴染みのギャルソンが
Cavabienと手招きして
店の奥のテーブルにつくと
(また騙したな)とワイングラス片手に
モジリアーニが小声で冷やかす
酔っ払いのモーリスなんか
おやおや可愛い人形だ
なんて大きな声で楽しげに笑う
それより
フロマージュと俺たちの葡萄酒をたのんで
みんなでグラスをふれ合わせる
ひさしぶりにピアフの歌に聞き入ると
モジリアーニが恋人に話しかける
ジゴロのくせにモデルにならないかなんて
小指を撫でて口説く始末である
ふふっと満更でもない含み笑いが
恋人の横顔に浮かんだ
にぎやかな笑い声につつまれて
シャンソン酒場の夜が更ける
暗い窓ガラスに滴がながれて
ピアフの恋の歌が心にしみる
恋人とグラスをふれ合わせると
ユトリロの描いたモンマルトルが
深い夜霧にしずむ 深い夜霧に・・・