朱い実の落ちて潰れて秋深し
愚痴ならべ聞く人もなく初笑い
水仙は薄陽の白を盗みけり
木漏れ日を一歩一歩や老の春
春さんへ小さい花ですいません
春の昼猫もわたしもごろ寝よし
雀の子おにぎり分ける野宿人
そぼそぼと紅濯がれて落椿
風も陽も三月
生きのびて春
野鳥たちソプラノ競う立夏かな
道端に風も見過ごし初夏の精
火砲鳴る悲劇に悲劇母の日も
呼子鳥九条一宇鳴いたとさ
走り梅雨猫の欠伸を貰いけり
神奈川県・三浦半島
三浦市宮内町八景原の断崖に古い供養塔が建っている
伊勢や志摩の貧村から三崎遊郭に売られてきた娘たち
遊郭の苦しい暮らしから逃れて我が身を投じたと云う
故郷に続く青い海であることがせめてもの救いだろう
凍凪や人買船は苦海ゆく
遊女棄つ八景原の月時雨
帰り着け凍凪の果て飢えた家
売り棄てた娘にせがむ木綿夜着
凍凪や名残の菓子の遊女塔
生きている紫陽花咲いて陽が射した
五月の夜うしろの影は誰だろう
初夏や街の緑を数え行く
柿若葉吾の老いなど知らぬげに
疫神に譲れぬ命花は葉に
山繭に翠の女神棲む噂
この時を生き延びている花明り
啼く鳥や広野は淡き春時雨
白い猫一睨みして花の影
ひょうろひょろ影は李白の花月夜
春疾風果て無き空の果ての無さ
秋天にLove is Blue輝けり
海に空色なき風の絵筆かな
鰯雲こんがり焼けて薫るほど
酒に月ひとり詠む句の夜寒かな
ごん狐見上げてぼっち十三夜
波が打ち処暑の葉山がセロを弾く
猫ゴロンなにやら嬉し上り月
少年故郷残像秋時雨
寄する波静寂が吸ふて秋時雨
酌むほどに秋雲となる現世かな
西行に召されし従姉花の雨
岡田史乃 没 2019年3月23日
うふふ春ちひさな花が頬笑むよ
とぼとぼと空いつぱいの春に逢ふ
風の笛水の琴聞く花筏
てんでんに春に舞ひ出づ過客哉
ジーンズ色の凍る空
歩道の泥の吹き溜り
すきとおる虹色の花
ちいさな命が生れた
花の影は細々のびて
淡い陽を健気に掴む
行き交う靴音に怯え
街は灰色に夕暮れる
咲いてはならぬ日に
咲いてはならぬ所で
無慈悲な祝福の命よ
教えてくれないかい
幸せとは何だろうね
哀しい微笑みの花よ
みずきの花のさびしさは
真白く咲いたその日です
もう帰れぬ花嫁のように
微笑みばかりなげかける
あなたはね
まるで蝶トンボでせう
水辺の草にとまつたまま
青い羽を見せびらかす
とても意地悪よ
捕まへやうとしたら
わたくしの手にとまつて
暫くは夢のやうに喜んだのに
あつと言ふ間にお空へ逃げたのよ
夏色の陽のなかで
全く不器用な飛び方でしたね
おほよそ
スマートな蜻蛉とは違ふのだもの
ご自慢の青い羽を
さも重さうに億劫さうに
飛んでゐるのが見えました
こんこん小雪が舞いまする
森にも里にも舞いまする
しんしんしずかな雪の夜
だあれもいない雪の夜
いたちの子 ひとりぼっちで鬼ごっこ
ぴょんぴょんはねて鬼ごっこ
母さんも雪といっしょに降ってこい
いたちの子 ひとりぼっちで鬼ごっこ
ぴょんぴょんはねて鬼ごっこ
母さんのまぼろし追いかけ鬼ごっこ
そこに天女が舞いおりて
鬼さんこちらと呼びました
いたちの子 こわごわ追いかけて
天女はおいでおいでと逃げました
白い雪にはぽつぽつ小さな足あとばかり
いたちの子 そっと天女の手をつかまえた
母さんみたいな手のやわらかさ
天女はいたちの子を抱っこして
母さんみたいな乳房のあたたかさ
しんしんしずかな雪の夜
だあれもいない雪の夜
いたちの子 あそびつかれて雪のとこ
母さんの夢といっしょに雪のとこ
ひとりぼっちじゃないんだよ
もう泣かないよ もう泣かないよ
母さんと鬼ごっこ 母さんと鬼ごっこ
くちなしの道で貴女に逢ったとき
恋人を選ぶようにきらきらした眼差しで
咲きかける花を盗んでいたのです
甘い香りに濡れた指に白いくちなしが
恥じらうように身をまかせていました
足音に気づいた貴女は
ルノアールの少女にように
その花を乳房にあてがい
月のひかりのように見つめたのです
なんとも愛らしい姿のひとつの罪よ
ふふと笑うとふふと微笑んで
梅雨の夜の風が吹いて
いっそう甘く香るくちなしの道を
花の盗人は細い足で逃げて行ったのです
うすぎぬの沙羅のはなさくゆふぐれに
こひびとの影はみづのやうにあやうゐ
好きになる心はとても苦痛なのですよ
あなたに逢へば散つてしまふ命でせう
きんじられた人の愛しさその恋しさは
水辺におちる蛍の妖しい炎のやうです
かなしい微笑みは夕闇に消へてしまふ
はらはらはらはらと舞ひ落ちてしまふ
青色すがたのひとでした
背の高い紳士にだかれ
雨のワルツを踊る
華奢な背中をゆらし
美しい横顔に微笑み浮かぶ
ぼくは青葉の陰で
雨の滴になって
見つめてた
しとしとしと
はかなげ あやうげ
絹の雨
しとしとしと
ぼくの涙 流れ流れ
散りまする